ぼくの生活圏にある西葛西の、まじめでキュートなケーキ屋さんです。けっして麻布や六本木や銀座にありがちなアヴァンギャルドなパティスリーではなく、したがって、ピンクの豹柄のチョコレートムースとかカシスのエクレアみたいなのではなく、むしろたいへんオーソドックスな品揃えの良心的なお店です。ふだんぼくは酒飲みであることもあって、ほとんどスウィーツを食べないので、いつもはスーパーマーケットやスパイス屋や中華食材店へ行く道すがら、かわいらしいこちらのお店の前を通り過ぎているばかりだったけれど、しかし、このところぼくはトルーマン・カポーティの小説をあれこれ読みふけっていて、作中にサンドウィッチとか、ターキーのローストとか、フルーツケーキとか、チェリーパイとか、アメリカンな食べ物がひんぱんに描かれるので、きょうぼくはつい我慢できずにアップルパイに誘惑されたのだった。アップルパイは、1p310円、5号ホール1500円、7号ホール3500円。ぼくは1pを買って、家でいただいきました。ほんのり冷たい都会的な仕上がりで、パイ生地は薄く伸ばして織り込んだこまやかでかろやかな層になっていて、内側に、お洒落なお酒とともにゆっくり加熱されしっとりして、ほのかにシナモンの香りをまとった上等の林檎のコンポートが潜んでいます。おいしい!比較するのも失礼だけれど、ハンバーガーチェーンのアップルパイはパイ生地を揚げてあってその油がいささかくどい。それに対して、こちらは(「揚げる」ではなく)「オーヴンで焼き上げて」あるゆえ、油っぽさもなく、食べ心地がかろやかで、そして内側に潜んだ林檎のコンポートに気品がある。ぼくはカポーティの小説を通じて、アメリカのいろんな顔をかいま見る。ぼくは、プラザホテルの純白のクロスのかかったテーブルで、セントラルパークの緑を見下ろしながら、マティーニを傾け、クラブハウスサンドウィッチを頬張る。山もなければ海もない、ただただだだっ広いカンザスのカフェで、ぼくは、朝の8時に、コーヒーを飲み、ステンレスのナイフでビーフステーキを切り分ける。ニューオリンズのレストランのテラスで、路面電車を眺めながら、騒々しいジャズを聴きながら、ぼくはビールを飲み、ナマズのフライに手を伸ばす。アメリカにはいろんな顔があって、まるでまとまりがないように見える。けっきょくターキーのローストやチェリーパイやアップルパイが、アメリカ人共通の心の故郷ではないかしらん。きっと、いまごろアメリカのどこかの街で、カリフォルニアロールでもつまみながら、Haruki Murakamiさんの小説を読みふけっているアメリカ人もいることでしょう。Eat for health,performance and esthetichttp://tabelog.com/rvwr/000436613/