高円寺の改札を出ると、無尽に商店街がある。そのひとつひとつには名前があり、それぞれに個性を放っていた。南口にある、パル商店街を歩いてみよう。途中長仙寺のある場所で、路地に入り商店街を出た。少しばかり歩くと、そこには古びた建物が視界に入った。3階へと通じる建物には、エレベーターはない。入口に入ると、時空を超えタイムスリップしそうな雰囲気を感じた。CURRY BAL くじらを出て、お茶の時間で余韻を楽しむことにした。商店街からお寺の向かいの路地に入り、古びた建物で足を停めた。2階は私語は禁止で読書を楽しむための喫茶店アール座読書館、3階は童話が朗読され、メルヘンの雰囲気が楽しめる喫茶店があった。ふたりともまだ話足りないので、迷わず3階まで階段を上がった。カーテンを開けると、そこはさながら琥珀色をしたメルヘンの森が開けた。床には雑草が生え、草花が生い茂って天井にまで伸びている。その隙間は埃を被ったレンガが引かれている。門は蔦が巻きつき、落ち葉が庭に散らばっていた。店員の男性が寄って来て、空いている席を選んで座るよう伝えてくれた。いきなり、現実の世界へと連れ戻された気がした。ボクらは店内をほぼ一周回り、水槽の脇の席へと腰を下ろした。各席は庭に溶け込むような自然な雰囲気で仕切られ、各テーブルは半個室のプライベート席になっている。メニューを貰い、ブックレットとなったページをめくった。重みのある料理の写真、解説をひとつひとつ読んだ。料理名は雰囲気に合わせた名称となっている。解説から、どんな料理かを探っていった。メニューはほぼ紅茶で、他に合わせるスイーツが載った。友人は“毒リンゴの紅茶”を、ボクは“ブラックチェリー”とした。カップ、ポットは、見事だった。お店の雰囲気に、完全に溶け込んでいた。それぞれに、コンセプトがあるのだろうか…肝心のブラックチェリー紅茶は、深みある余韻を感じた。毒リンゴの紅茶も、同様だった。店主は、一年掛けて手作りでこのワンダーランドを作ったそうだ。このパズルのような店内は、エセルの悩める心の迷路だった。作家J.C.Macmillan の“中庭のエセル”という物語をモチーフとした。お店のブログを読み進めると、心に傷を持つ少女、“エセル”の空想と現実が入り混じった空間がこの店舗だった。心の傷口にバンドエイドを貼るには、充分な空間だった。